「コロンビア初の女性副大統領誕生に思うこと」

2022年5月29日、当地は大統領選挙を控えている。選挙で勝つことがほぼ決定的とされる左派グスタボ・ペトロのマニフェストはどうしても一気に読むことができず、休み休み、自分を励ましつつ頭に入れている。

約10年この国で生活し、4年に一度のこのお祭りを見物するのも3回目である。参政権こそないものの、ようやく慣れた税制がひっくり返され、新しい乗り物や公共交通のシステムに慣れ、一人の社会人として義務を果たし、権利を行使しながらコロンビアで生活している。

2021年この国のいわゆる貧困層は人口あたり39.3%であり、極度の貧困層は同12.2%とされる(DANE)。これまで全てのトップ政治家が貧困撲滅と闘ってきたけれど、すぐに結果なんか出ない。そんなことみんな分かっている。というより、この国に住んでいると「本当に貧困解決したいのだろうか」と思うこともある。

子どもを抱えて物乞いする女性を見る。胸が痛む。仕事が見つかってほしいと思う。できれば高い賃金で。でも、学歴・職歴のない女性達がまず働くのは教会の清掃や、口利きされて運がよければ家事手伝い(いわゆるお手伝いさん)である。2022年現在、相場は一日50,000ペソ(約1,650円)。丸一日掃除・洗濯・料理、買い物等フルに働いてもらってこの値段である。平日毎日、土曜も昼まで勤務なら月額100万ペソ(約2万9,000円)。この国では、中間層以上にはだいたいEmpleada(お手伝いさん)がいることが普通。住み込みも珍しくない。中間層はだいたいこの国の反芻以上を占めるので(平均月収約69万~371万ペソ)、その上の上流階級も含めると、この国の女性には「お手伝いさんになるか、お手伝いさんを雇うか」。この2つの人生しかないように思える。

今週末、コロンビア初の女性副大統領となることが確実視されるフランシア・マルケスは黒人女性でもあり、フェミニストでシングルマザー、環境アクティビストだ。人権と環境の活動家として多くのマイノリティの代弁者という。その彼女と策定したペトロのマニフェストには「女性の輝く未来を!」として、貧困女性を救いたいと熱く書いてある。女性の賃金アップ、女性の居場所をつくる、女性の活躍できる場を・・・。

わかる。それはとてもよくわかるし、政治家は理想を語るべき。でも、フランシアが自分の仕事にまい進できたのは、彼女の炊事洗濯を担う女性がいたからではないのか。子どもの送迎をし、ご飯を食べさせてくれるシッターがいたからではないのか。

常々、女性が男性並みに仕事をするためには、家には必ず専業主婦に値する人物がいないと無理だと私は考える。日本の場合実家の母というパターンが多いけれど、これは心理的にも物理的にも距離が近い親子の恵まれたパターンであり、ほとんどはその恩恵を享受できない。でもコロンビアは違う。人件費の安さは、この国の女性の社会参加率の根幹となっている。私だって身近に頼れる人がいない中、お手伝いさんにどれだけ助かっているか。

「女性の賃金アップを! 家事だけではない社会に居場所を!」と叫ぶ女性が、一番そういう女性に支えられて仕事しているのではないか。

男女差別ではなくて、この国にあるのは社会格差だけではないのか。

そんなぎこちない思いをコーヒーでごまかしつつ、傍観者は選挙を見つめるのである。

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