AmazonがRappiに2,000万ドル以上投資へ

当地スーパーマーケットCarullaに行くとき、いつもたむろしているコロンビア発のスーパーアプリRappiのパートナーたち。「自分で自分の上司になって稼がないか?」というキャッチフレーズでパートナーを増やし、今ではどこに行くにもRappiのバッグを見かけます。個人的には、最初使い慣れないときに配達地のPINを5ミリほどずれてお願いしてしまい、わりと法外な追加料金をチップとして支払った苦い思い出(今考えてもあれはなかった・・・まあ仕方ない)。今では数か月に一度お願いすることがあるので、ヘビーユーザではないけれど恩恵はしっかりうけています。まさにスマホにより機会均等が実現したRappiは雇用の受け皿としても絶妙な立ち位置で、あっという間にコロンビアの消費者の心をつかみました。

そんなRappiに、世界の巨人Amazonが2,000万ドル(約32億円超)を投資することがわかりました。

まず注目すべきは投資規模。2,000万ドルという額は、Rappiのこれまでの累計資金調達(推定25億ドル超)の中では比較的「小さな一歩」に見えるかもしれません。しかし、Amazonという名前の重みを考えると、このニュースは金額以上の意味。言ってみれば「2,000万ドルの投資+Amazonブランドの信頼料」というセット商品なのです。

Rappiの現状を数字で見てみましょう。同社は2015年に設立され、現在9か国以上で事業を展開、約30都市をカバーしています。ユーザー数は推定4,500万人、アクティブパートナー(配達員)は20万人規模。2024年の取扱総額(GMV)は約80億ドルに達したとされます。まさに「何でも運ぶ」プラットフォームに成長しましたが、黒字化はまだ実現できていません。配送コストや人件費の高さが重荷で、2024年の損失は数億ドル規模と報じられています。

一方のAmazon。中南米市場ではすでにブラジル、メキシコで強固なプレゼンスを確立していますが、コロンビアでは物流網の構築に苦戦していました。Eコマースの普及率を見ても、コロンビアはGDPに占めるオンライン小売の比率がわずか5%前後。中国の30%超、アメリカの15%超と比べれば、まさに「成長余地の宝庫」です。人口5,000万人のうちインターネット利用者は約4,000万人、スマートフォン普及率は70%を超えています。Amazonから見れば「まだショッピングカートに商品が入っていない巨大市場」に見えたかもしれず・・・。ちなみに2022年3月、ベゾス氏は科学や環境保護への関心から、CIATの新施設「Semillas del Futuro(未来の種子)」を訪問し、約1,500万ドルの投資もはじまったので元々コロンビアにはいい印象があったのかもしれません(そう思いたい)。

では、今回の投資でAmazonは何を得るのでしょうか。まず第一に、Rappiが持つ即時配送ネットワーク。現在、Rappiの平均配達時間は約35分。アマゾンのプライム便でも「当日配送」が限界であることを考えると、この差は大きいです。「35分 vs 当日」――ユーザーから見ればどちらを選ぶかは明らかです。AmazonにとってRappiは魅力的。

第二に、Rappiの顧客データです。コロンビアでは2024年に約120億ドル相当の食品・生活必需品がデジタルプラットフォーム経由で取引され、その約40%をRappiが占めています。つまり、コロンビアの消費行動を最も詳しく知る企業の一つがRappiということになります。Amazonがこのデータを活用すれば、消費者行動の分析やターゲティング広告に強みを発揮できるでしょう。

ただし、課題も山積みです。Rappiの2024年の純損失率はGMV比で約15%と推定され、資金注入がそのまま「赤字補填」に消えるリスクもあります。Amazonとしては「お金がRappiの胃袋に入って消化不良にならないこと」を願っているはずです。

また、競争環境も厳しさを増しています。メルカド・リブレ(Mercado Libre)は2024年、コロンビアでのEコマース売上を前年から約25%伸ばし、物流倉庫を3か所新設しました。さらにUber EatsやPedidosYaなどもシェアを狙っており、「ラストワンマイル戦争」はいよいよ激化しそうです。

それでも、AmazonのRappi投資はコロンビア経済にとってプラス材料です。国際的なテック大手が資金を投じたことで、スタートアップエコシステム全体への信頼感が高まります。コロンビア政府によれば、2024年の外国直接投資(FDI)は合計181億ドルで、そのうち約2%がテック分野。今回の投資は、この割合を引き上げる可能性があります。

最後に、AmazonがRappiを選んだのは、「敵に回すより、夜9時にアレパを届けてくれる友達にした方がいい」と判断したからかもしれません。ラテンアメリカのEコマース市場は今後数年で年率15%成長が見込まれています。Amazonが狙うのは、この成長の果実。もし今後「Alexa、エンパナーダを注文して」と話しかけると、15分後に玄関ベルが鳴る未来が来たら……それはAmazonとRappiの共同作業の成果なのです。

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