外資が動くコロンビア農業 ― アボカドとライムで広がる輸出拠点化の波 ―

2025年、コロンビアの農業分野で外資系企業による生産・加工体制の強化が進んでいます。その象徴的な事例が、米国の大手青果企業フレッシュ・デル・モンテ・プロデュース社(Fresh Del Monte Produce Inc.)と、コロンビアの農業企業マナグロ・グループ(Managro Group)による合弁事業です。両社は、アボカドおよびライムの輸出向けパッキング施設を拡張し、コロンビアをラテンアメリカの主要な青果輸出拠点として位置づける計画を進めています。
このプロジェクトは、2025年上半期に発表され、アンティオキア県やヴァジェ・デル・カウカ県を中心に展開されています。新設されるパッキングハウスには、最新の選果・冷却・追熟技術が導入され、欧米市場向けに安定供給を図ります。生産能力は従来比で約2倍、年間処理量はアボカドで約3万トン、ライムで1万5000トンに達する見通しなんだとか。
フレッシュ・デル・モンテ社は世界90カ国以上に流通網を持ち、サステナブル農業と現地生産の強化を掲げています。コロンビアは地理的多様性と安定した気候により、アボカドやライムなど熱帯果実の周年生産が可能な国です。マナグロ・グループのような現地企業との協業により、同社は「地産地消型サプライチェーン」と「輸送コスト削減」を両立させることを狙っています。
背景には、世界的なアボカド需要の拡大があります。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、アボカドの国際取引量は過去10年間で約2.5倍に増加し、2024年には世界総取引額が約90億ドルに達しました。主要生産国メキシコ、ペルーに続き、コロンビアは第三の輸出大国として台頭しています。2024年のコロンビア産アボカドの輸出額は約2億8千万ドル(前年比+37%)に上り、米国、欧州連合、日本が主な輸出先です。
ライムもまた、輸出拡大が顕著です。米国市場ではメキシコ産ライムの供給不安定化を背景に、コロンビア産の需要が高まっています。2025年の輸出量は前年比25%増と見込まれ、欧州市場でも販売網の拡大が進行中です。輸出ライムの平均単価は1キログラムあたり1.1ドル前後と堅調で、高品質志向の市場に支えられています。

こうした外資の投資は、コロンビア農業が「原料輸出」から「付加価値輸出」へと進化する兆しを示しています。これまで農家は果実をそのまま輸出業者へ販売する形が主流で、国内での利益は限定的でした。しかし、選果・包装・冷却といった工程を国内で行うことで、品質の一貫管理と雇用創出が可能になります。マナグロ・グループによれば、この合弁事業で約500名の直接雇用と1000名超の間接雇用が見込まれています。女性雇用の拡大も顕著で、農村部の社会的包摂を促す効果が期待されています。
コロンビア政府もこの動きを支援しています。農業省と商工観光省は、外資企業との連携を通じた輸出型農業の拡大と、環境配慮型農業への移行を推進しています。EUのサステナビリティ基準を満たすため、再生可能エネルギーによる冷却施設やトレーサビリティ(生産履歴追跡)システムの導入を支援する政策も始まりました。2024年には、農業総生産に占める輸出向け作物の割合が26%まで上昇し、農業が経済成長の原動力となりつつあります。
ただし、輸出規格に対応できる大規模農家と、資金や技術に乏しい小規模農家との格差は依然として課題です。契約栽培や技術移転を通じて「共に成長できる仕組み」を整えることが、持続的な発展には不可欠です。
こうした中で注目されるのが、日本企業にとってのビジネスチャンスです。コロンビアの農業は、今まさに加工・流通・品質管理のインフラを整えつつあり、「技術導入」と「ブランド形成」の余地が大きい段階にあります。日本が得意とする分野――たとえば精密な農業機械、低温物流システム、品質検査装置、そして食品加工技術や米粉・発酵技術(お、これは弊社の活動と重なる!)など――は、コロンビアの付加価値型輸出モデルと極めて相性が良いといえます。
さらに、現地企業と連携した共同研究や人材育成プロジェクトも期待されています。環境負荷を抑えつつ高品質な果実を生産するためのスマート農業技術、自然エネルギーを利用した乾燥・保管システム、地域住民の技能研修など、日本企業が「技術と人材」で支える分野は多岐にわたります。コロンビア政府が推進するグリーン輸出政策と歩調を合わせることで、日本の企業は単なる取引相手としてではなく、共創パートナーとしての地位を築くことが可能です。
アボカドやライムに象徴される今回の外資導入は、単なる農業投資にとどまりません。これは、コロンビア農業が世界市場へと飛躍する「構造転換」の始まりであり、日本企業にとってもラテンアメリカでの新たな参入機会を示唆する動きです。持続可能で高付加価値な農業をともに築くことで、両国の関係はさらに深まり、アジアと南米を結ぶ新たな食の架け橋が生まれる可能性があります。外資と地場の知恵が融合し、地域社会に利益をもたらす形での成長モデルを築けるか。コロンビア農業の未来は、今まさにその岐路に立っているとみています。

