コロンビア、政権交代期の行方 ― 大統領選が左右する農業ビジネスの未来

写真はメデジン地方のグアタペ。まるでヨーロッパにいるような景色・・・。

2026年に予定されているコロンビア大統領選挙を前に、同国の政治と経済は大きな転換点を迎えています。

現職のグスタボ・ペトロ大統領は、左派として初めて政権を握り、社会的包摂と環境重視を掲げた政策を進めてきました。エネルギー転換や土地改革を中心とした改革路線は一部の国民から支持を集める一方、経済界や中間層からは懸念の声も。次期大統領が誰になるかによって、コロンビアの農業ビジネスの方向性は大きく変わる可能性があります。

コロンビア経済において、農業は依然として基幹産業です。GDPの約8%を占め、雇用人口の3人に1人が農業に関わっているほか、伝統的なコーヒーや花卉、バナナに加え、近年ではアボカドやカカオ、ライムなど輸出志向の高い作物が急成長しています。特にアボカドは、欧州市場で「グリーンゴールド」と呼ばれ、メキシコに次ぐ生産国としての地位を確立しつつあります。輸出量の増加は外貨収入の安定に寄与し、農村地域の経済を支える重要な柱となっています。

ペトロ政権は「公正な農業改革」を掲げ、土地の再分配や小規模農家への資金支援を進めてきました。農村開発公社を通じて未利用地の再活用を促進し、女性農業者への支援プログラムも拡充しています。また、気候変動の影響に備えるため、灌漑施設の整備やスマート農業技術の導入も推進されています。こうした政策は、農業の持続可能性を高める一方で、民間投資の慎重化という副作用も生んでいます。外資企業の一部は、政策の不透明さや税制の変化を懸念し、新規投資を一時的に見送る動きも見られます。

一方、外資による生産体制の強化は引き続き進んでいます。オランダやイスラエル、スペインの企業は、輸出用アボカドやライムの加工・選果施設を相次いで建設し、コールドチェーン(低温物流)を含むサプライチェーン全体の効率化を図っています。欧州市場における需要の拡大に対応する形で、最新のトレーサビリティ(生産履歴追跡)技術を導入する企業も増えています。これらの取り組みは、品質と安全性を重視する国際市場での競争力を高める結果につながっています。

今後の焦点は、次期政権がどのような農業政策を打ち出すかです。保守派候補の一部は、外資投資の再活性化と輸出拡大を優先する方針を明言しています。これに対して、左派系の後継候補は、土地分配や農村開発を引き続き重視する姿勢を示しており、政策の方向性が大きく異なります。コロンビアの農業は、経済政策と社会政策の狭間で揺れているのが現状です。

気候変動も、次期政権の重要な課題となります。異常気象による干ばつや豪雨が頻発し、特にアンダス地方ではコーヒーの収量が年々不安定になっています。政府と民間が連携し、耐乾性作物の導入や土壌改良技術の普及を進めることが求められています。環境保全と生産性向上を両立させる「クライメート・スマート農業」への転換は、国際的な投資潮流にも合致しており、日本を含む海外企業の参入機会が広がっています。

日本企業にとっても、コロンビア農業は新たなビジネスチャンスを秘めています。たとえば、農業機械、バイオ肥料、ICTを活用した気象予測システムなどの分野で、技術協力や共同プロジェクトの可能性が高まっています。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも、地域社会と連携した持続可能な農業モデルは注目に値します。

コロンビアの農業は今、政治・気候・国際経済という三つの要因の交差点に立っています。次期大統領の政策が、同国の農業を「包摂的成長」へ導くのか、それとも市場志向型の拡大路線へ戻すのか。その選択は、国内農家のみならず、世界の食料市場にも影響を与えることになります。

政権交代の行方を見極めることは、コロンビア農業ビジネスの未来を読むことにほかなりません。

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