コロンビア 2025年のペトロ政権下における伝統的コカ栽培から合法農業への転換状況及びビジネスについて

コロンビアは長年、世界最大級のコカ(コカイン原料)栽培国として知られてきました。国際社会からの強い圧力を受ける中、特にウリベ政権以降政府は撲滅政策を進めてきたものの農村部の貧困、治安問題、インフラ未整備といった複合要因により、未だ完全にコカを一掃できていません。
2025年現在、ペトロ政権は「強制的な根絶」から「合法農業への転換支援」へシフトし、生産者がいかに損をせずにコカインから米、大豆などに品種を転換させるかに重点をおいています。これによる新たな市場機会や慎重なリスク管理は何があるのでしょうか?
主なポイントとして、政府が推進する転換支援策として、
①現金支給と技術支援:コカを廃棄した農家に一時的な補助金支給と、新作物栽培に向けた技術と資材提供。
②インフラ整備:道路、貯蔵施設、灌漑設備の整備による市場アクセス改善。
③市場アクセス支援:合法作物の販売先紹介、輸出支援、ブランド化支援。
④ファイナンス:農家向け低利融資プログラム。
※対象作物はカカオ、コーヒー、アボカド、キヌア、ハーブ類(アロマティックプランツ)。国内外で成長が見込まれる品目が中心となっている。
コカから合法農業への転換は単なる社会貢献にとどまらず、ビジネス上の大きな可能性があるのでしょうか?
①新規農産品のサプライチェーン構築
未開拓市場であるため、参入競争が比較的少ない段階でサプライチェーンを構築できる。(例 スーパーフード向けキヌア・マラクジャ(パッションフルーツ)
② ESG(環境・社会・ガバナンス)投資との親和性
世界的にESG投資が拡大する中、「元違法作物地域での持続可能な農業支援プロジェクト」は投資家やバイヤーから高く評価される傾向にある。特に欧州、日本、米国市場では、こうしたストーリー性を持つ商品の引き合いが強い。
③社会的信用の向上とリスク分散
コカ依存型経済からの脱却は、農業ビジネスにとって政治的リスク(摘発、資産没収リスクなど)を低減する効果があり、中長期的な安定成長につながる。
一方で、転換支援ビジネスには生産者の生産技術不足や治安リスク(一部地域では武装勢力の影響力が残っており、事業展開に制約)、市場開拓の難しさ(品質保証やブランド構築に時間とコストがかかる)など固有の課題もあります。
これらのリスクを適切に管理するためには事業設計とパートナーシップ構築が問われます。
加えて、農業ビジネス側からみると、転換支援プロジェクトに取り組むにあたり企業側には次のような具体策が求められます。
①クラスターモデルの導入
単独農家を支援するのではなく、地域単位で栽培・加工・販売まで一貫支援する「クラスター形成型支援モデル」(効率的な資源投入と持続可能なビジネス運営のため)。
②現地パートナーとの連携強化
生産者組合、協同組合との連携。地方自治体、国際機関(USAID、UNODCなど)との協力。現地ネットワークを最大限に活用し、リスク分散とコスト効率化を図る。
③ プレミアム市場戦略
高品質・有機認証取得(例:Organic、Fair Trade、Rainforest Alliance)。「コカからの転換」というストーリーテリングによるブランド構築。
コカ栽培からの転換支援は、社会的意義が高いだけでなく、農業ビジネスにとっても成長機会となり得るプロジェクトとなります。ただし、単なる短期的な支援ではなく、社会課題の解決とビジネス成長を両立させる「インパクト型事業」の実践の時なのかもしれません。実際に当地ではコルテコヴァ(Cortecova)というビジネスがあり、武装解除兵士の社会復帰 × 縫製ビジネス(元戦闘員を雇用し、制服や作業着などの縫製工場を運営。技術訓練+精神的サポートを併用)が知られているほか、アルティソル(Artesanías de Colombia)など先住民族の伝統工芸を世界市場向けにプロデュースしている活動もあります。貧困、暴力といった社会課題に対して「課題解決そのものを競争優位に変える」ビジネスが今後も増えてくると推測されます。