コロンビアにおける労働改革と国民投票の可能性


2025年4月、当地経済紙Portafolioによるとグスタボ・ペトロ大統領は長年の課題となっていた労働法改革について、国民投票による決定を求める提案を行いました。

改革の背景、提案内容、政治的および社会的影響はどのようになるのでしょうか?

労働市場の二重構造と労働者保護の不均衡
コロンビアの労働市場は長年にわたり正規労働と非正規・非公式労働の二重構造を抱えています。国家統計庁(DANE)によると、2025年初頭の時点で労働人口の57.7%が非正規部門で就労しており、社会保障制度へのアクセス・働く権利の保護、賃金の安定などに課題を抱えています。

特に若年層や女性、地方の労働者はもっと不利な状況におかれ、短期契約やパートタイムの雇用形態が広がることで貧困や格差の固定化が懸念されてきました。こうした状況に対し、ペトロ政権は「社会正義の回復」を掲げ、包括的な労働改革を政権の柱の一つとして進めてきましたが、議会での審議は度重なる対立により停滞してきました。
今回の提案には、以下のような重要な改正項目が含まれています:

労働時間の短縮:1日8時間、週最大42時間の労働時間を厳格に守ることを規定。(←これ以上厳格になるの・・・? と個人的には疑問)

夜間労働の再定義:夜間の定義を午後6時から午前6時とし、その時間帯の労働には追加手当を義務付け。(これはすでに定着しているのでは?)

休日労働の補償強化:日曜・祝日の勤務に対しては、通常の2倍賃金を支払うことを義務化。(2倍はこれまでなかった!)

無期契約の促進:正規雇用(無期契約)を基本とし、短期契約やサービス契約の乱用を抑制。

解雇の手続き厳格化:不当解雇の抑止を目的として、解雇の際には正当な理由と詳細な手続きを求める。

これらの改正は、労働者にとっては大きな権利拡大を意味しますが、同時に企業側には人件費の増加や雇用の柔軟性低下などの負担が発生するため、経済界からは慎重な姿勢も見られます。


これまで議会においては、与野党間の対立や経済界からの反発もあり、法案の進展は困難を極めてきました。そうした状況を受けて、ペトロ大統領は憲法第376条に基づき、国民投票によって直接民意を問うという手段に踏み切ったのです。

この手続きには、まず議会の承認が必要であり、議会は提案から1か月以内に是非を判断しなければなりません。承認されれば、大統領は90日以内に国民投票を実施することが可能となります。

国民投票は、単なる法案可決の手段にとどまらず、民主主義の直接的な実現、すなわち労働者と国民による政策形成への参加を象徴する重要な制度です。しかし、その一方で、政治的分断の激化や感情的な対立を助長するリスクも併せ持っていると考えます。


この労働改革が実現すれば、労働者の生活の質の向上、労働の人間性回復といった社会的成果が期待される一方、短期的には以下のような経済的影響が懸念されます:

中小企業への負担増:夜間・休日手当の増加や雇用コストの上昇により、零細・中小企業が雇用を控える可能性。(正規雇用がむしろ減る、業務委託契約が増加する)

非公式雇用の増加:雇用規制が強化されることで、むしろ契約逃れや非正規労働が増加する懸念。

これらの課題に対応するには、単なる労働規制の強化にとどまらず、企業支援策や監督体制の整備、労働市場のトランジション支援(職業訓練、再就職支援等)との連動が不可欠であり、それが一番難しいと思います。


今回の国民投票提案は、単に労働法の技術的な改正にとどまらず、コロンビア社会の価値観と経済制度を根本から見直す試みであると言えます。

今後はまず、議会がこの提案を受け入れるか否かが焦点となります。仮に議会が拒否した場合、大統領が別の憲法的手段(署名による国民発議等)を用いる可能性も残されており、引き続き政治的駆け引きが予想されます。私は、なぜこんなにもペトロがやっきになるのか? これだけ社会格差のある国で同じ労働法ではなく、Equalityのもとにケースバイケースを残した法律起案にしてほしいと思います。

国民投票が実施された場合には、有権者の意識、特に都市部と農村部、雇用主と労働者の間の利害の相違が浮き彫りになることが想定されます。そのため、広範な国民的対話と説明責任を伴った情報発信が不可欠です。

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